2025年12月20

白内障手術を受けることになった時、一番悩まれるのが「眼内レンズの選び方」です。
「保険のレンズと何が違うの?」
「高いレンズを入れたら、絶対に眼鏡がいらなくなるの?」
「種類が多すぎて、自分に合うものが分からない」
診察室でもこのようなご質問をよくいただきます。
一生に一度の手術ですから、迷われるのは当然です。
今回は「単焦点レンズと多焦点レンズの違い」、費用を抑えて多焦点レンズを使用できる制度「選定療養(せんていりょうよう)」、そして当院で採用している「多焦点レンズ」について詳しく解説します。
「単焦点」と「多焦点」何が違う?
白内障手術では、濁った水晶体の代わりに人工の「眼内レンズ」を入れます。このレンズには大きく分けて2つの種類があります。
・単焦点眼内レンズ(保険診療)
ピントが合う距離が「1ヶ所」だけのレンズです。「遠く」に合わせるか、「近く」に合わせるかを事前に決めます。
メリット: 保険適用で経済的負担が少ない。ピントが合った距離の画質は非常に鮮明で、夜間のライトのまぶしさ(ハロー・グレア現象)も少ない。
デメリット: ピントが合わない距離を見るためには、必ず眼鏡(老眼鏡や近視用眼鏡など)が必要になります。
・多焦点眼内レンズ(選定療養または自由診療)
ピントが合う距離が「複数(遠く・中間・近く)」あるレンズです。
メリット: 眼鏡をかける頻度を大幅に減らすことができます。 買い物、料理、スマホ、運転など、日常生活の多くのシーンを裸眼で過ごせるようになります。
デメリット: 費用がかかること。また、構造上、暗い場所でライトを見ると光の輪が見えたり(ハロー)、光が滲んだり(グレア)する現象が起きやすい場合があります(※レンズの種類によって程度は異なります)。また、非常に細かい文字を見る際など、状況によっては眼鏡が必要な場合もあります。
費用を抑えられる「選定療養」とは?
「多焦点レンズ=全額自己負担で高額」というイメージをお持ちの方も多いですが、2020年から「選定療養」という制度が始まり、より身近になりました。
選定療養の仕組み
簡単に言うと、「手術代は保険適用」+「レンズの差額代のみ自己負担」というハイブリッドな仕組みです。
- 【保険適用】 手術技術料、麻酔、薬代、検査代など(1割〜3割負担)
- 【自己負担】 多焦点レンズの代金(追加費用)
これにより、全額自費の自由診療に比べて、経済的な負担を抑えつつ、ご自身の希望する高機能なレンズを選ぶことが可能です。
※採用レンズや乱視の有無で費用は異なりますので、詳細はご来院時にご案内いたします。
当院採用の多焦点レンズ比較
多焦点レンズは近年、目覚ましい進化を遂げています。当院では、患者様の満足度が高い以下の最新レンズを採用しています。それぞれの特徴をまとめた比較表をご覧ください。
レンズ特徴比較表
| レンズ名 | メーカー | タイプ | 推奨される見え方・特徴 | 夜間の見え方(ハロー・グレア) |
| Clareon PanOptix (パンオプティクス) | アルコン | 3焦点 | 【実績No.1のオールラウンダー】 遠く・中間(60cm)・近く(40cm)のバランスが抜群。世界で最も使われている標準的なレンズ。 | 出やすい |
| TECNIS Odyssey (オデッセイ) | J&J | 連続焦点 | 【鮮明な見え方】 遠くから近くまで「途切れ」を感じにくい。コントラスト(くっきり感)が高く、画質にこだわる方向け。 | 従来より軽減 されているが出る |
| FineVision (ファインビジョン) | BVI | 3焦点 | 【3焦点レンズのパイオニア】 世界初の3焦点レンズとして長い実績を持つ。光のロスが少なく、自然で柔らかい見え方が特徴。 | 出やすい |
| Vivinex Gemetric (ジェメトリック) | HOYA | 3焦点 | 【日本品質の安定感】 国内シェアNo.1メーカーの素材を使用。日本人の眼に合わせて設計されており、術後の安定性が高い。 | やや出やすい |
| TECNIS PureSee (ピュアシー) | J&J | 焦点深度拡張 | 【夜間運転・自然さ重視】 多焦点特有の「ハロー・グレア」が単焦点並みに少ない。超近距離は弱いが、夜間運転が多い方に最適。 | 非常に少ない |
各レンズの詳細解説
① Clareon PanOptix(パンオプティクス)
世界的なベストセラー
現在の多焦点レンズのスタンダードと言える存在です。40cm(読書)、60cm(PC・料理)、遠方(運転)の3点にピントが合います。特に60cmの中間距離が見やすく、現代の生活スタイルにマッチしています。
② TECNIS Odyssey(テクニス オデッセイ)
「くっきり、はっきり」質の高い見え方を追求
最新のテクノロジーを搭載し、従来の多焦点レンズの弱点であった「薄暗い場所での見にくさ」を改善しました。遠くから手元まで、ピントの切り替わりを感じさせないスムーズな見え方が特徴です。「多焦点でも、画質の鮮明さには妥協したくない」という方に最適です。
③ FineVision(ファインビジョン)
世界初の実績、3焦点レンズのパイオニア
ベルギーのメーカーが開発した、世界で初めて登場した3焦点レンズです。長年の臨床実績があり、複雑な光学設計により光のロスを抑えています。見え方の質が「柔らかく自然」と評されることが多く、瞳孔の大きさに左右されにくい設計のため、幅広い年齢層の方に適応しやすいレンズです。
④ Vivinex Gemetric(ヴィヴィネックス ジェメトリック)
信頼の日本メーカーHOYA製
日本のHOYA社が長年培った、眼内での安定性が高いレンズ素材(Vivinex)をベースにした3焦点レンズです。パンオプティクス同様に遠・中・近が見えますが、日本人の眼のデータに基づいて設計されており、術後のトラブルが少ない信頼性の高さが強みです。
⑤ TECNIS PureSee(テクニス ピュアシー)
夜間運転も安心、ハロー・グレアが極めて少ない
これまでの多焦点レンズは、夜のライトがギラつく「ハロー・グレア」が避けられませんでした。ピュアシーはその欠点を劇的に改善しており、単焦点レンズと変わらないほど自然な見え方です。
※非常に細かい文字(薬の説明書など)を見る時は、薄い老眼鏡が必要になることがありますが、「完璧な裸眼生活」よりも「見え方の質・夜間の運転」を優先する方に最適です。
結局、どのレンズを選べばいいの?
「一番高いレンズが一番良いレンズ」とは限りません。
大切なのは、「あなたのライフスタイルに合っているか」です。
レンズ選びで後悔しないために、以下のポイントを参考にしてみてください。
Q一日のうち、何を見ている時間が長いですか?
- デスクワークや家事が多い
- →中間距離に強い「ジェメトリック」
- 画質の鮮明さ、最新機能を重視したい
- →コントラスト感度が高い「オデッセイ」
- 夜間の運転をする、光の輪が見えるのが怖い
- →ハロー・グレアが少ない「ピュアシー」
- 実績重視、自然な見え方が良い
- →長年の実績がある「ファインビジョン」「パンオプティクス」
医師からのメッセージ
白内障手術は、濁った視界を取り戻すだけでなく、「これからの人生をどう見たいか」をデザインする手術でもあります。
今回ご紹介したレンズはどれも素晴らしい性能を持ったものですが、それぞれ得意分野が異なります。
インターネットの情報だけで決める必要はありません。当院では、精密な検査データをもとに、医師とスタッフが患者様お一人おひとりの生活スタイルをじっくり伺い、最適なレンズをご提案させていただきます。
「自分にはどのレンズが合うんだろう?」と少しでも迷われたら、遠慮なくご相談ください。
クリアな視界で、これからの毎日をより豊かに過ごせるよう、全力でサポートさせていただきます。