2026年1月10

秋や春の健康診断シーズンが終わると、お手元に届く「検診結果通知書」。多くの方が血圧やコレステロール、肝機能の数値には一喜一憂されますが、「眼科」の判定項目については「視力が落ちたかな?」「少し様子を見よう」と、つい後回しにしてしまう方が少なくありません。しかし、眼科医として切実にお伝えしたいのは、「健康診断の眼科検査は、単なる視力測定ではない」ということです。今回は、なぜ健診で眼科検診が必要なのか、そして指摘を受けた際にクリニックでの「精査」が必要な理由について詳しく解説します。
なぜ健康診断に「眼科検診」があるのか?
目は「むき出しになった臓器」とも言われます。実は、体の中で唯一、直接「血管」や「神経」を観察できる場所が目なのです。
健康診断の眼底検査では、目の奥にある網膜の血管を観察します。ここを見ることで、目の病気だけでなく、高血圧や動脈硬化、糖尿病といった全身疾患の進行具合を推測することができるのです。「目は全身を映す鏡」と呼ばれるのは、このためです。
また、多くの目の病気は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。自分では「よく見えている」と思っていても、実際には病気が静かに進行していることが多々あります。その「静かな変化」をいち早く見つけるのが、健診の役割です。
健診でよく指摘される「気になる項目」とは?
健康診断の結果で、よく目にする指摘事項をいくつか挙げてみます。
① 視神経乳頭陥凹拡大(ししんけいにゅうとうかんおうかくだい)
健診で最も多く指摘される項目の一つです。これは「緑内障」の疑いがあることを示しています。 目の奥にある視神経の出口(乳頭)のくぼみが、通常よりも広がっている状態を指します。
② 眼底出血・白斑(はくはん)
網膜の血管が切れて出血したり、血液成分が漏れ出したりしている状態です。これは目の病気(網膜静脈閉塞症など)だけでなく、糖尿病や高血圧が原因で起こることもあります。
③ 眼圧上昇
目の中の圧力(眼圧)が基準値を超えている状態です。眼圧が高い状態が続くと視神経がダメージを受けやすく、緑内障のリスクが高まります。
④ 網膜変性・網膜裂孔(れっこう)
網膜に薄くなっている部分や、小さな穴が開いている状態です。放置すると「網膜剥離」という、失明に直結する重篤な状態につながる恐れがあります。特に強度の近視がある方に多く見られます。
「見えているから大丈夫」が一番危険な理由
「眼科の再検査を勧められたけれど、自分ではよく見えているから行かなくていいや」 そう考えてしまうお気持ちはよくわかります。しかし、ここには大きな落とし穴があります。
緑内障は「気づいた時には手遅れ」が多い
日本人の失明原因第1位である緑内障は、視野(見える範囲)が少しずつ欠けていく病気です。しかし、人間には両目があるため、片方の目が欠けた視野を補ってしまいます。また、脳が情報を補完する機能があるため、視野の半分近くが欠けるまで自覚症状が出ないことも珍しくありません。一度失われた視野は、現代の医療では元に戻すことができないのです。
糖尿病網膜症も「自覚症状なし」で進む
糖尿病による目の合併症も、初期から中期にかけては全く痛みも視力低下もありません。「急に目が見えなくなった」と来院された時には、すでに重症化しており、手術が必要になるケースも多いのです。
クリニックでの「精査」は何が違うのか?
健康診断で行われる検査は、あくまで「ふるい分け(スクリーニング)」です。短時間で多くの人を診るための簡易的な検査に過ぎません。一方、眼科クリニックでの「精査」には以下の重要な役割があります。
- 詳細な画像診断(OCT検査) :当院では、網膜の断層写真を撮ることができる「OCT(光干渉断層計)」という最新機器を使用します。これにより、健診の平面的な写真では分からなかった、網膜の厚みや視神経の細かいダメージを立体的に把握できます。
- 視野検査 :実際にどこまで見えているか、見えない場所(暗点)がないかを精密に測定します。
- 医師による直接の診察: 顕微鏡(スリットランプ)を使い、水晶体や網膜の状態を医師が直接隅々まで確認します。
「異常なし(経過観察)」となることも多いですが、それはそれで「今の自分の目の健康状態を正しく知った」という大きな安心に繋がります。
あなたの「見える未来」を守るために
目は情報の8割以上を司ると言われる、人生の質(QOL)に直結する大切なパーツです。 健康診断の「要精査」という結果は、体からの小さなサインです。それを「ただの指摘」と捉えるか、「大切な目を守るチャンス」と捉えるかで、10年後、20年後の視界は大きく変わります。
もし結果表に気になる記載があったら、怖がらずに、ぜひお気軽に眼科を受診してください。