2026年3月14

「ゆがみ」や「かすみ」を感じ始めたあなたへ
「最近、片方の目で見ると物がゆがんで見える」「視力が落ちた気がするけれど、老眼のせいかな?」 そんな違和感を覚えて受診される患者さんの中で、近年増えているのが「黄斑前膜(おうはんぜんまく)」という病気です。
別名「黄斑上膜(おうはんじょうまく)」や「エピレチナルメンブレン」とも呼ばれます。放置すると視力低下が進むこともありますが、現在は手術技術の進歩により、日帰り手術で安全に治療することが可能になっています。今回は、黄斑前膜の症状・原因・最新の治療法について詳しく解説します。
黄斑前膜とはどんな病気?
私たちの目はカメラに例えられることがよくあります。レンズにあたる「水晶体」を通り抜けた光は、目の奥にある「網膜」というフィルムに像を結びます。
その網膜の中心部にある、最も視力にとって重要な部分を「黄斑(おうはん)」と呼びます。私たちが「物を見る」とき、その情報の大部分はこの黄斑で処理されています。
黄斑前膜は、この大切な黄斑の上に「膜」が張ってしまう病気です。 膜が厚くなったり、収縮して網膜を引っ張ったりすることで、網膜にシワが寄り、視覚にさまざまな不具合が生じます。
主な症状:こんな見え方はありませんか?
初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行するにつれて以下のような症状が現れます。
- 変視症(へんししょう): 物がゆがんで見える。格子の線や障子の枠が曲がって見える。
- 視力低下: 全体的にかすんで見え、メガネを作り直しても視力が出にくい。
- 小視症(しょうししょう): 反対の目で見るときよりも、物が小さく見える。
- 中心暗点: 見たい部分の中心が暗く、はっきりしない。
セルフチェックのポイント
片目を隠して、アムスラーチャートを左右交互に見てください。「片方の目だけ線がゆがんでいる」と感じたら、黄斑前膜の可能性があります。
なぜ膜ができるのか? その原因
黄斑前膜の主な原因は、加齢に伴う目の変化(後部硝子体剥離)です。
- 眼球の中には「硝子体(しょうしたい)」というゼリー状の組織が詰まっています。
- 高齢になると、この硝子体が収縮して網膜から離れていきます。これは誰にでも起こる生理的な現象です。
- この際、網膜の表面に硝子体の一部が残ってしまうことがあります。
- その残った成分が時間をかけて細胞増殖を起こし、厚い「膜」へと成長してしまうのです。
加齢以外にも、網膜剥離の手術後や、目の中の炎症(ぶどう膜炎)などが原因で起こることもあります。

治療について:飲み薬では治りません
残念ながら、一度できてしまった黄斑前膜を飲み薬や目薬で溶かしたり、散らしたりすることはできません。根本的な解決には、手術によって物理的に膜を取り除く必要があります。
手術のタイミング
「診断されたらすぐに手術」というわけではありません。 視力が良好で、本人の自覚症状(ゆがみなど)が少ない場合は、経過観察を行うこともあります。しかし、膜が厚くなり網膜のシワが固定されてしまうと、手術をしても視力の回復が限定的になるため、適切なタイミングでの介入が重要です。
最新の低侵襲手術(硝子体手術)
当院で行っているのは、「硝子体手術(しょうしたいしゅじゅつ)」です。
手術の流れ
- 局部麻酔: 目の周りに麻酔を行い、痛みを感じない状態で開始します。
- 微細な器具の挿入: 白目の部分に3-4箇所、針穴ほどの小さな穴を開けます。
- 膜の除去: 顕微鏡下で、網膜の表面に張り付いたコンタクトレンズよりも薄い膜を、専用のピンセットで丁寧にはがします。
- 終了: 穴は非常に小さいため、多くの場合、縫合の必要はありません(自己閉鎖します)。

日帰り手術が可能な理由
かつての硝子体手術は入院が一般的でしたが、現在は機器の小型化(極小切開手術)が進み、目への負担が劇的に軽減されました。
- 手術時間: 症例によりますが、多くは30分〜60分程度です。
- 回復の早さ: 傷口が小さいため、手術直後から歩行可能で、その日のうちにご帰宅いただけます。
- 術後の生活: 翌日から家事やデスクワーク程度の活動は再開できることが多いです(※医師の指示に従ってください)。
手術後の経過と期待できる効果
手術で膜を取り除くと、網膜のシワが徐々に伸びていきます。ただし、長年かけてついたシワはすぐには戻りません。
- ゆがみの改善: 数ヶ月から1年ほどかけて、ゆっくりとゆがみが軽減していきます。
- 視力: 多くの場合、術前より改善しますが、完全に「若い頃の視力」に戻るわけではなく、「現在の視力の維持・緩やかな回復」を目標とします。
眼科医からのメッセージ
黄斑前膜は、決して珍しい病気ではありません。「年だから仕方ない」と諦めてしまう前に、まずは一度、眼底検査を受けてみてください。
当院では、最新の検査機器(OCT:光干渉断層計)を用いて、網膜の状態を解析し、手術が必要かどうかを慎重に診断いたします。日帰り手術という選択肢も含め、患者さんのライフスタイルに合わせた最適な治療をご提案します。少しでも目に違和感があれば、お気軽にご相談ください。
