2026年6月27

皆様は、目の前に「虫や糸くずのような黒い影が飛んで見える(飛蚊症)」、あるいは「暗い場所でピカッと光が走る(光視症)」といった症状を経験したことはありませんか?これらは日常的によくある見え方の変化と思われがちですが、実はその裏に、速やかな治療を必要とする緊急性の高い病気「裂孔原性網膜剥離(れっこうげんせいもうまくはくり)」が隠れていることがあります。今回は、大切な視力を守るために必ず知っておいていただきたい、この病気の仕組みやサインについて分かりやすく解説します。
どんな病気?
私たちの目は、よくカメラの構造に例えられます。目の中に入ってきた光は、レンズ(水晶体)を通り、目の最深部にある「網膜(もうまく)」という薄い膜にピントを結びます。この網膜こそが、カメラでいう「フィルム」の役割を果たしており、入ってきた光を電気信号に変えて脳へ伝える非常に重要な組織です。
「裂孔原性網膜剥離」とは、この大事な網膜に何らかの原因で「裂け目(網膜裂孔)」ができてしまうことから始まる病気です。目の中は「硝子体(しょうしたい)」という透明なゼリー状の液体で満たされていますが、網膜に裂け目ができると、この液体が隙間から網膜の裏側へとじわじわと入り込んでしまいます。その結果、壁紙が剥がれるように、網膜が眼球の壁からペラペラとはがれてしまうのです。網膜は一度はがれてしまうと正常に光を感知できなくなり、視野の欠けや深刻な視力低下を引き起こします。

初期のサイン(前兆症状)
網膜剥離はある日突然発症するように感じられますが、多くの場合、前兆となる「初期のサイン」が存在します。特に以下の2つの症状が突然現れたり、急に変化したりしたときは、網膜に異常が起きている可能性が高いため厳重な注意が必要です。
- 突然の飛蚊症(ひぶんしょう) :目の前を蚊やゴミ、あるいは糸くずのような黒い影がふわふわと浮いて見える症状です。目を動かすと一緒に影も動くのが特徴です。加齢による生理的なもの(無害なもの)も多いですが、網膜に裂け目ができた瞬間に微細な血管が破れて目の中に微量な出血が広がると、突然この黒い影が現れたり、数が急激に増えたりします。
- 光視症(こうししょう) :暗い部屋に入ったときや、目を動かした瞬間に、視界の端の方で「ピカッ」「キラキラ」と稲妻のような光が走って見える症状です。目の中のゼリー(硝子体)が網膜を強く引っ張ることで、網膜が物理的な刺激を「光」として誤認するために起こります。これが網膜の裂け目につながる危険なサインとなります。

進むと出る症状(進行期の症状)
初期のサインを見過ごしてそのまま放置し、網膜の剥がれがさらに奥へと進行していくと、以下のような深刻な症状が自覚されるようになります。
- 視野の一部がカーテンのように欠ける:網膜がはがれた部分に対応する視野が、まるで黒いカーテンや影に覆われたように見えなくなります。上がはがれれば下が見えにくくなり、外側がはがれれば内側が見えにくくなります。この視野の欠けは、時間の経過とともに徐々に中央に向かって広がっていきます。
- 全体的に見えにくい、視力が下がる:網膜の中心部には「黄斑(おうはん)」と呼ばれる、物を見るために最も重要な、感度の高い中心エリアがあります。剥離がこの黄斑部にまで及んでしまうと、急激に視力が低下し、文字が読めなくなったり、物の形が歪んで見える(変視症)ようになったりします。

なりやすい人(リスク要因)
網膜剥離は誰にでも起こり得る病気ですが、以下のような特徴や既往歴を持つ方は、特に発症のリスクが高いと言われています。
- 強い近視の方:近視が強い方は眼球の奥行き(眼軸長)が前後に長くなっています。そのため、網膜全体が引き伸ばされて薄くなっており、少しの刺激で裂け目ができやすい傾向があります。
- 加齢(中高年の方):年齢とともに目の中のゼリー(硝子体)は少しずつ萎縮して液体に変わり、網膜から離れていきます。この離れる過程(後部硝子体剥離)で網膜を強く引っ張ってしまい、裂け目を作ることがあります。
- 眼のけが(外傷):目に強い衝撃を受けると、その勢いで網膜に裂け目ができることがあります。スポーツや事故の直後だけでなく、数ヶ月から数年経ってから発症することもあります。
- 白内障手術を受けたことがある方:白内障手術を行うと目の中の構造や容積に変化が生じるため、手術から数年が経過した後に網膜剥離を起こすリスクがわずかに高まるとされています。
放置しないで!早期受診が大切な理由
網膜剥離において最も恐ろしいのは、「放置すればするほど、視力を元に戻せなくなる可能性が高まる」という点です。
網膜は眼球の壁(脈絡膜)に密着することで栄養や酸素の補給を受けています。しかし、網膜がはがれてしまうと栄養の補給が途絶え、網膜の神経細胞が徐々に死滅(変性)していってしまいます。特に、網膜の中心部である「黄斑部」まで剥離が進んでしまうと、たとえその後手術を行って網膜を元の位置に綺麗に戻したとしても、完全に元の視力を取り戻すことが非常に困難になります。放置すれば最悪の場合には失明に至ることもある恐ろしい病気です。「数日様子を見よう」と放置することは絶対に禁物です。異変に気づいたら、一刻も早く眼科を受診することが何よりも重要です。
どんな治療を行うの?
治療法は、病気がどの段階にあるか(網膜に裂け目があるだけか、すでに網膜がはがれ始めているか)によって大きく2つに分かれます。
- レーザー治療(網膜光凝固術):網膜に「裂け目(裂孔)」はできているものの、まだ周りの網膜がはがれていない(網膜剥離に至っていない)超初期の段階であれば、外来で行えるレーザー治療で解決できることが多いです。これは裂け目の周囲にレーザーを照射し、意図的に軽い火傷を作って網膜と下の組織をしっかりと「溶接」する治療法です。これにより液体が網膜の裏に入り込むのを防ぎ、剥離への進行を食い止めます。痛みは比較的少なく、10〜15分程度で終わります。
- 手術治療:すでに網膜がはがれてしまっている場合は、レーザー治療だけでは治せないため、手術が絶対に必要となります。手術には、目の中のゼリー状の組織を吸引して内側から網膜を押し戻す「硝子体手術」や、眼球の外側からシリコン製のスポンジをあてて網膜を接着させる「強膜バックリング手術」があります。手術によって網膜を元の位置に戻し、裂け目を塞ぐ処置を行います。
⚠️ こんなときは早めに眼科へ!
- 飛蚊症(黒い影やゴミ)が急に増えた・初めて現れた
- 暗いところでピカピカと光が走って見える
- 視野の一部に黒い影やカーテンがかかったように見える
- 急に見えにくくなった、視力が落ちた
飛蚊症があるからといって、そのすべてが網膜剥離というわけではありません。しかし、急激な変化があるときは眼底検査による確認が不可欠です。少しでも気になる症状があれば、決して様子見をせず、早めにご相談ください。
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